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東京地方裁判所 平成11年(ワ)21877号 判決

原告 有限会社リバティ・イン

右代表者代表取締役 山崎進

右訴訟代理人弁護士 佐藤勝

同 廣澤幹久

同 大武正史

被告 有限会社岩田書房

右代表者取締役 岩田吉郎

右訴訟代理人弁護士 山本真一

主文

一  原告が被告に対し賃貸している別紙物件目録記載の建物の賃料は、一か月三〇万円であることを確認する。

二  被告は、原告に対し、五二万五〇〇〇円及びこれに対する平成一一年一〇月一六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  主文第一項と同旨

二  被告は、原告に対し、八五万円及びこれに対する平成一一年一〇月一六日から支払済みまで年一割の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  前提となる事実

1  株式会社岩本工務店(以下「岩本工務店」という。)は、昭和五四年一〇月二九日、被告に対し、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を、賃料一か月二五万円、翌月分を毎月末に持参払と定めて賃貸した。

2  岩本工務店と被告は、右賃料について、平成六年一二月二〇日、一か月三〇万円と増額する旨合意した。

3  原告は、平成一一年七月一二日、競売により本件建物を取得した。

4  被告は、本件建物の賃料は減額されたと主張して、同年八月二五日及び九月一日に各一二万五〇〇〇円ずつ支払った。

二  原告の請求

1  本件建物の賃料は、前記のとおり、一か月当たり三〇万円である。

2  被告の平成一一年七月一二日から同年一〇月末日までの間の未払賃料額は、一一〇万円から既払額二五万円を控除した八五万円である。

3  よって、原告は、被告に対し、本件建物の賃料額の確認を求めるとともに、平成一一年七月一二日から同年一〇月末日までの未払賃料及びこれに対する訴状送達の日の翌日から年一割の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の主張

1  被告は、平成一一年一月一一日、岩本工務店との間で、本件建物の賃料を、平成一〇年一月一日から一か月二五万円に減額するとともに、その支払方法について、次の合意をした(以下「本件減額合意」という。)。

(一) 未払の平成一〇年一月分から同年一二月分までの賃料合計三一五万円については、被告が差し入れている保証金のうち二一五万円を岩本工務店が被告に一旦返還し、被告はこれに一〇〇万円を足して支払った。

(二) 平成一一年一月分以降の賃料月額二五万円については、半額の一二万五〇〇〇円は被告が差し入れている保証金残額一五八五万円のうちから岩本工務店が相殺し、残りの一二万五〇〇〇円については、被告が岩本工務店の銀行口座に振り込んで支払う。

(三) 以上の支払方法は、平成一五年六月分までの分とし、その後の賃料の支払方法は当事者で協議して決定する。

2  被告は、岩本工務店に対し、右合意に従い、平成一一年一月分から同年七月分(同年六月末日支払)までの毎月の賃料を支払った。

3  被告は、右合意に従い、原告が本件建物の所有権を取得したことが被告に通知された後の平成一一年八月分(同年七月末支払)から一〇月分については、原告に指定された口座に月一二万五〇〇〇円ずつ支払っている。

四  原告の主張

1  被告の主張1の事実は知らない。

本件減額合意は、原告に対し対抗できない。被告主張に係る合意は、競売開始決定やその競売手続の現況調査よりもはるかに遅れてされたものである。競売物件の所有者(前賃貸人)と賃借人が競売記録に記載されていないような、しかも新賃貸人の権利を不当に害するような特約を密かに締結し、それが競落人である新賃貸人に対し対抗することができるとすると、競落人は予期し得ない著しい損害を被り、ひいては競売の信用性を根底から損なうことになる。

2  同2の事実は知らない。

3  同3の事実は認める。

五  争点

本件における主たる争点は、被告主張に係る本件減額合意を原告に対し対抗することができるか否かである。

第三当裁判所の判断

一  証拠(乙三)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件建物については、平成八年、株式会社東京三菱銀行の申立てを受けて東京地方裁判所が競売開始決定をし、そのころ、その決定が債務者である岩本工務店(賃貸人)に対し送達された。そして、原告は、平成一一年七月一二日、右競売手続において、本件建物を競売により取得した。

2  被告は、右競売開始決定後の平成一一年一月一一日付けをもって、岩本工務店との間で、本件建物の賃料を、平成一〇年一月一日から一か月二五万円に減額するとともに、その支払方法について、前記第二の三1記載のとおりの本件減額合意をした(乙三)。

二  ところで、賃貸中の不動産に対する競売開始決定がされた後においても、債務者は、当該不動産を通常の用法に従って利用、管理することが許されるところであるが、その範囲を超える行為については、競売申立人の期待権を害しないような特段の事情が存在しない限り、それをもって競落人に対抗することはできないというべきである(最高裁昭和三五年一〇月一四日第三小法廷判決参照)。

そこで、以下、本件において右特段の事情が存在するか否かについて、検討する。

1  本件減額合意は、本件建物について競売開始決定された後に締結されたものである。そして、その内容は、平成六年一二月に増額改定された一か月当たりの賃料額三〇万円を二五万円に減額するとともに、その支払方法について、平成一一年一月分以降平成一五年六月分までの賃料について、一二万五〇〇〇円分は被告が差し入れている保証金残額一五八五万円のうちから岩本工務店が相殺し、残りの一二万五〇〇〇円については、被告が岩本工務店の銀行口座に振り込んで支払うものとし、平成一五年七月分以降の賃料の支払方法については別途当事者で協議して決定するというものである。

このように、本件減額合意は、賃貸中の建物の賃料額について、競売開始決定後、債務者と賃借人との間で二割弱程度減額するとともに、減額合意後の賃料の半額については賃借人が有している保証金返還請求権と相殺処理することをその内容とするものである。しかも、その相殺処理が予定されている額は、平成一一年一月から平成一五年六月までの間で、合計六七五万円に達するというものである。

2  ところで、本件競売手続においては、平成一一年一月二九日作成された変更後の物件明細書上、「借賃」は月額三〇万円とされ、また、「保証金」については、「一八〇〇万円の主張はあるが、過大であるため適正敷金相当額を考慮して最低売却価額を定めた」旨記載されており(甲四)、同日付けの最低売却価額等決定において、その額が九六〇万円と定められているところである(甲四)。

そして、右決定の基礎とされた平成一〇年一一月二〇日付けの再評価補充書においては、評価人米田稠は、本件建物の価額を九六〇万円と評価しているが、その評価に当たり、借家権減価は通常は二〇パーセントであるが、本件建物については「保証金が過大であるので、適正敷金相当額を考慮して評価額を定めた」として、四〇パーセントの減価をしており、この減価は、競落人に引き継がれるべき敷金が約三二〇万円授受されている場合と同様のものとなっている(甲三、四)。そして、同評価人の平成九年三月二八日付け評価書(乙五)においても、「借家権減価については、保証金等を考慮し四〇パーセントとした」とされているところである。

このようなところからすると、本件建物の賃貸借に際し被告が差し入れた保証金の取扱いについては、その競売手続においても問題とされていたものと推認されるところである。確かに、一八〇〇万円という保証金の額は昭和五四年一一月当時の賃料額(月額二五万円)の七二か月分に相当する高額である(甲六の1)。他方、本件建物が入っているのと同一の建物の三階部分は、昭和六一年六月に賃貸借されているが、その際に授受された保証金は賃料額(月額一六万五〇〇〇円)の六月分強の一〇〇万円に止まっているところである(乙五)。

このようなことにかんがみると、本件保証金を巡る法律関係については、それが競落人との関係で引き継がれるのか否か、引き継がれるとしたらその額は幾らか、といった点については、本件減額合意の当時明確になっていなかったものといわざるを得ない。

3  以上認定、説示したところを総合すると、本件減額合意は、競売開始決定が債務者に対し送達された後に、債務者と賃借人との間で、賃料額を相当程度減額するとともに、賃借人が差し入れた保証金を巡る法律関係が不明確な状況の下において、減額合意後の賃料額の半額については賃借人が有している保証金返還請求権と相殺処理することを合意するものであり、しかも、その相殺処理が予定されている額の合計は六七五万円に達するというものである。

こうしたところからすると、本件減額合意は、本件建物の通常の用法に従った利用、管理の範囲を超えるものといわざるを得ない。そして、以上説示したところを総合考慮すると、本件においては、競売申立人の期待権を害しないような特段の事情をうかがわせる資料は存在しないといわざるを得ない。

そうすると、本件減額合意をもって原告に対抗することはできないというべく、被告の主張は採用できない。

三  以上の次第であるから、本件建物の賃料が一か月三〇万円であることの確認を求める原告の請求は理由がある。

次に、原告は、被告に対し、平成一一年七月一二日から同年一〇月末日までの未払賃料の支払を求めているが、本件賃料は、翌月分を毎月末日までに支払う旨定められているところからすると、原告が被告に対し請求し得るのは同年八月一日以降の分ということになる筋合いである。そして、被告が本件賃料のうち平成一一年八月分(同年七月末が支払時期)から一〇月分を、原告に指定された口座に月一二万五〇〇〇円ずつ支払っていることは当事者間に争いがないので、結局、原告が被告に対し請求できる未払賃料の額は、その差額である一か月当たり一七万五〇〇〇円となり、三か月分の合計は五二万五〇〇〇円となる。

なお、原告は、右未払賃料について年一割の割合による遅延損害金の支払を求めているが、商事法定利率年六分の限度で理由がある。

四  以上の次第であるから、原告の本件請求は、右三で説示した限度において理由があるが、その余は失当として棄却を免れない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 金井康雄)

(別紙) 物件目録

(一棟の建物の表示)

所在 東京都新宿区新宿一丁目三〇番地二五

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根七階建

床面積 一階 七二・五〇平方メートル

二階 八三・七二平方メートル

三階 八六・八七平方メートル

四階 八六・八七平方メートル

五階 八六・八七平方メートル

六階 八三・三五平方メートル

七階 七三・二三平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号 新宿一丁目三〇番二五の一二

種類 店舗

構造 鉄筋コンクリート造一階

床面積 一階部分 六一・九三平方メートル

以上

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